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杉本商店

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うま味の相乗効果に関する学術論文

うま味の相乗効果に関する学術論文

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干し椎茸に特有のグアニル酸が、他の食材のうま味(グルタミン酸)を濃厚にしてくれます。つまり干し椎茸や椎茸粉をお料理に使うと、いつもよりもっと美味しくなります。

このことについて書かれている主な研究論文を3つご紹介します。

1) Molecular mechanism of the allosteric enhancement of the umami taste sensation
Ole G. Mouritsen, Himanshu Khandelia, 2012
https://febs.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/j.1742-4658.2012.08690.x

NHKガッテンの椎茸粉特集で取り上げられた論文です。画像はNHKガッテンに登場した論文著者のオーレ教授です。

スクリーンショット 2023-05-06 11.51.47.png

うま味受容体にグルタミン酸が入ると我々はうま味を感じます。
そこにグアニル酸(干し椎茸のうま味成分)が入ると受容体の口を閉じて、うま味を長く強く感じるようになります。

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以下はこの論文の要約です。

科学が明かした、うま味の相乗効果のしくみ

「うま味」は、甘味・塩味・酸味・苦味に続く第5の基本味として知られています。  
この味の正体は、グルタミン酸(Glu)というアミノ酸で、私たちが食べ物の中のタンパク質や栄養を見分けるための重要な手がかりです。

人間の舌には、このグルタミン酸を感知するうま味受容体(T1R1/T1R3)があります。グルタミン酸がこの受容体に結びつくことで、うま味の信号が味細胞から脳に伝えられ、私たちは「おいしい」と感じるのです。

さらに注目すべきは、干し椎茸に多く含まれているグアニル酸(GMP)などのヌクレオチドが加わると、うま味の感じ方が何倍にも増すことです。この現象は昔から知られていましたが、その仕組みが明確になったのは比較的最近のことです。


グルタミン酸とGMPの協力によるうま味の強化

研究によって、グルタミン酸とGMPがそれぞれ異なる場所に結びつき、うま味受容体の構造に協調的な変化をもたらすことが明らかになりました。

この受容体の重要な部分は、Venus flytrap domain(VFTD)と呼ばれる構造です。これは、ちょうどハエトリグサのように開いたり閉じたりする構造で、グルタミン酸が結びつくと閉じて「オン」の状態になり、味覚信号が発生します。

この論文では、分子動力学シミュレーションを用いて、以下のことが観察されました:

- グルタミン酸があると、VFTDは閉じた状態になりやすくなる
- さらにGMPが加わると、閉じた状態がより強く、安定して保たれるようになる
- GMPは、VFTDの「外側のくぼみ」のような場所に結びつき、グルタミン酸の働きを後押しする

このしくみこそが、うま味の相乗効果の分子的な正体です。


グルタミン酸は生まれたときから私たちの身近にある

この論文では、グルタミン酸が単なる味の成分であるだけでなく、人間の母乳の中で最も多く含まれているアミノ酸であることも述べられています。つまり、人は生まれた瞬間からグルタミン酸に触れ、うま味を「美味しいもの」として自然に認識できるようにできているのです。

うま味は単なる嗜好ではなく、体が必要とする栄養を察知するためのしくみの一部とも言えます。


科学が明らかにした自然な味のしくみ

この研究では、グルタミン酸・GMP・うま味受容体の関係が、100ナノ秒スケールのコンピュータシミュレーションによって詳細に調べられました。その結果、以下のことが明らかになりました:

- グルタミン酸が受容体を閉じる方向に動かす
- GMPはその閉じた状態をさらに安定させる
- 両者が揃うことで、受容体が「オン」の状態を強く保ち、うま味の信号がより明確になる

GMPはそれ自体でもある程度味を引き起こすことがありますが、グルタミン酸と一緒に存在することで、より強い効果が発揮されることが、このシミュレーションからも確認されています。


まとめ

- グルタミン酸はうま味を生み出す主要なアミノ酸で、人の舌の受容体がこれを感知して味を伝える
- GMP(グアニル酸)は、このうま味受容体に加わることで、グルタミン酸の効果を強化し、味を何倍にも感じさせる
- この2つの成分は異なる場所に結合しながら協力し合うという、相乗効果のしくみを持つ
- 人間の母乳に多く含まれるグルタミン酸は、生まれたときから私たちがうま味に慣れ親しんでいることを示している

このように、うま味の相乗効果は、自然界に存在する物質同士の「協調」によって生まれています。そしてこの論文は、その協調がどのようにして受容体の構造を変え、「おいしさ」という感覚を増幅しているのかを、分子レベルで明らかにしたものです。



2) Flavor potentiators
Joseph A. Maga &Shizuko Yamaguchi, 2009
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/10408398309527364

この論文では、うま味の相乗効果について網羅的に紹介されています。

"An even more dramatic synergistic effect has been shown for MSG-GMP combinations, where a 30-fold increase in flavor intensity has been reported when equal amounts of MSG and GMP were utilized.
These data would indicate that at their optimum effectiveness MSG-GMP combinations are approximately four times more synergistically potent than MSG-IMP."

MSG(グルタミン酸)-GMP(グアニル酸)の組み合わせでは、さらに劇的な相乗効果が見られ、MSGとGMPを同量使用した場合、風味強度が30倍増加することが報告されている。これらのデータから、MSG-GMPの組み合わせは、最適な効果を発揮する場合、MSG(グルタミン酸)-IMP(イノシン酸)の約4倍の相乗効果があると考えられる。」


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3) Taste and Flavor Enhancement using Natural Ingredients: The Prediction and Optimization of Umami Taste in Real Food Systems
Lisa Methven, Maria Dermiki, Chutipapha Suwankanit, Orla B. Kennedy, Donald S. Mottram, 2014
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/B9780123985491000891

調理済み挽肉製品のうま味を増強するために有効な天然素材を探した研究です。

"Combinations of soy sauce with either mycoprotein derivative, shiitake extract, or concentrated tomato extract led to maximized umami taste in the meat. "

醤油にマイコプロテインエキス、シイタケエキス、濃縮トマトエキスのいずれかを組み合わせることで、肉のうま味を最大限に引き出すことができました。

この論文は、天然素材を使用して食品の旨味や味を増強する方法を探っています。研究では、しいたけエキスのほか、酵母エキス、マイコプロテインエキス、味噌、醤油、トマトピューレなどの天然素材を使用し、肉製品に添加してうま味が増強するかテストしています。その結果、肉製品に添加された素材によってうま味や塩味が強化され、特に醤油にマイコプロテインエキス、シイタケエキス、濃縮トマトエキスのいずれかを組み合わせることが効果的でした。研究者たちは、天然素材を使用することで、高齢者や味覚障害のある人々がより楽しめる食品を提供できる可能性があると結論付けています。


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