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椎茸栽培で若々しく蘇る里山

椎茸菌・クヌギ・人間・クワガタが作る生物多様性が豊かな里山の自然

Tag: #森林再生 #環境保護 #持続可能な森林 #森林回復 #自然保護 #生態系 #生物多様性 #リジェネレーション #クワガタ #椎茸

目次

椎茸栽培で若々しく蘇る里山

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1000年続く椎茸栽培が、豊かな里山の自然をどのように維持しているのか?

椎茸の原木栽培は、椎茸菌・クヌギ・人間・クワガタが協働で、生物多様性が豊かな里山の自然を作り上げています。まずはその概要をご説明します。

椎茸菌美味しくて身体に良い椎茸を実らせて、人間が間伐で里山を維持する情熱を与えます。

クヌギ:切り株から自然と発芽して成長するので、伐採しても約15年で里山を再生します。

人間間伐という労力を提供して里山の生物多様性を持続していきます。

クワガタ用役済み原木を噛み砕いて発酵させ良質な土壌に還し、森林再生に深く関与します。

豊かな里山の自然がどのように維持されているのか、以下詳しく解説していきます。


切り株から自然に芽が出て15年で森が再生

1000年の歴史を持つ日本の原木栽培椎茸には、現代人には理解しきれない知恵が詰まっています。この動画では、少なくとも3世代にわたる古くからの椎茸栽培を記憶している高千穂の椎茸名人、広末弥寿雄さんが、伝統的な方法で環境にやさしく持続可能で、より良い品質の椎茸を栽培する方法を紹介します。

この動画では、椎茸栽培のために伐採されたクヌギが自然に切り株から何度も再生する様子を椎茸名人が説明します。どのようにして切り株から早く強く再生する確率を高め、周囲の森林の状態を向上させるのかをご覧ください。

椎茸栽培は、森林をサステナビリティ(持続)からリジェネレーション(再生)へ導きます。


間伐の秘密: 椎茸栽培が森を助ける

木を切るのは良くないことだと勘違いされている人がいます。皆伐は地球環境によくありませんが間伐は持続可能な豊かな里山を維持するためにとても大切な作業です。里山の視点から見た皆伐と間伐の違いを解説します。

皆伐(かいばつ)X ダメなやつ
皆伐とは、一度に広範囲の森林をすべて伐採する方法です。主な特徴は次の通りです。
目的: 主に迅速に木材を大量に供給する目的や森林以外の用途に転用するために行われます。
影響: 皆伐後は、広い範囲が裸地となり、植生が完全に失われます。そのため、土壌流出や水質悪化などの環境問題が発生しやすくなります。また、生態系が一時的に崩壊し、多くの動植物が一時的に失われます。
回復: 皆伐後は新たな植林や自然再生が必要となり、元の豊かな生態系に戻るには長い時間がかかります。

間伐(かんばつ)
間伐とは、森林内の一部の木を選んで間引き、残った木々の成長を促進する方法です。主な特徴は次の通りです。
目的: 森林の健康を維持し、成長を促進するために行われます。これにより、光や風が森の内部に届きやすくなり、下草や低木の成長を促進します。
影響: 間伐は森林の一部だけを伐採するため、森林の構造は維持されます。これにより森に日光が降り注ぎ下草や低木の成長が期待できます。CO2をより多く吸収する若い樹木が増えます。
回復: 残った木々がより健康に成長し、森全体の生物多様性が高まります。定期的な間伐を繰り返すことで、持続可能な豊かな里山が維持されます。


椎茸栽培が森を再生する3ステップ

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ステップ1: 暗く過密な森の状態
木々が密集し過ぎているため、森の内部が非常に暗く、地面にはほとんど光が届きません。このため、下草や低木が育ちにくく、生物多様性が低くなります。

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ステップ2: 間伐と光の確保
選ばれた木々を伐採して間隔を広げ、光が森の床に届くようにします。これにより、下草や低木が育ち始め、風通しも良くなります。これを繰り返すことで、さらに光が入りやすくなり、地面に多様な植物が生えるようになります。

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ステップ3: 豊かな里山の形成
定期的な間伐と手入れを続けることで、多様な植物が生育し、それを餌とする動物も増えます。結果として、生物多様性が高まり、人間が農業や林業を行いながら自然と共生する豊かな里山が形成されます。


まとめ
椎茸の原木栽培は、間伐を通じて森の密度を適切に管理することで、暗く過密な森を明るく多様な生態系を持つ里山へと若々しく蘇らせていきます。このプロセスは、人間と自然が共に生きるための重要な活動であり、里山文化の核心とも言えます

農水省サステナアワード2020で大賞を受賞しました!


CO2をより多く吸収する椎茸栽培

老齢林は成長が遅くなり、CO2の吸収量が減少します。そのため、間伐を行い一部の老齢樹木を伐採し、若い樹木を育てることで、森全体のCO2吸収力を高めることができます。

森林総合研究所「森林の林木(幹・枝葉・根)が吸収(固定)する炭素の平均的な量」は累積数値なので、広葉樹天然林の齢級ごとの炭素吸収量を計算すると以下のようになります。

樹齢 1-5 6-10 11-15 16-20 21-25
材積(m3/ha) 4 28 40 53 68
炭素量(t/ha) 2 13 6 7 4

(この炭素量を二酸化炭素の重さに換算するためには、炭素量に44/12(≒3.67)を乗じます。)


森の保水力を高める椎茸栽培

森の保水力と間伐の関係


森の保水力の役割:
森林の土壌はスポンジのように小さな隙間が多く、雨水を一時的に蓄えることができます。この機能により、降った雨がすぐに河川に流出せず、徐々に地中に浸透し、安定的に川へと流れ出るようにします。これにより、洪水の緩和や水質の浄化に寄与します​。

間伐とは?(林野庁)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kanbatu/suisin/kanbatu.html

水を育む森林のはなし(林野庁)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/suigen/suigen/con_1.html


間伐がもたらすもの
間伐を行うことで、以下のような効果が得られます。

光の確保: 間伐により林内に光が差し込むようになると、下層植生が豊かに生育します。下層植生は雨水を効果的に吸収し、土壌の保水力を高める役割を果たします​。

土壌の安定化: 健全な下層植生は土壌を安定させ、土壌流出を防ぎます。これにより、森林の水源涵養機能が向上し、洪水時の水の流出量を抑える効果があります​。

根の発達: 残った樹木は根を深く張り、土壌の水分をより効果的に吸収します。深く広がった根は土壌をしっかりと保持し、さらに保水力を高めます​。


間伐の具体的な効果
雨水の貯留: 森林土壌に浸透した雨水は、土壌中で貯留され、ゆっくりと川へ流れ出ます。これにより、洪水のピークを遅らせ、流量を安定させる効果があります​。

水質の浄化: 森林土壌を通過する雨水は、植物に吸収されたり、土壌中のミネラル成分と反応して浄化されます。これにより、川に流れ出る水は清浄で、適度にミネラルを含んだものになります​。

まとめ
間伐は、森林の健康を維持し、保水力を高めるための重要な手段です。適切な間伐を行うことで、下層植生が豊かに育ち、土壌の保水力が向上し、洪水の緩和や水質の浄化に大きく寄与します。これにより、持続可能な森林管理が実現され、地域の水資源の安定供給が促進されます

動画 台風通過の3日目でも椎茸山から川へ流れ出す水(2022/9/21撮影)

台風14号(NANMADOL)は2022年に9月18日19時頃に非常に強い勢力で鹿児島市付近に上陸し,19日朝にかけて九州を縦断,20日9時に日本の東で温帯低気圧に変わりましたが,宮崎県を中心に西日本で記録的な大雨や暴風となりました。この動画のように山が大雨を一旦受け止めて、3日かけて川に流すことで下流の洪水を大幅に緩和することができます。


椎茸の原木栽培に伴い森林が適切に間伐されることで、雨水の貯留効果が生まれます。
森林土壌に浸透した雨水は、土壌中で貯留され、ゆっくりと川へ流れ出ます。これにより、洪水のピークを遅らせ、流量を安定させる効果があります​。



生態系を支える: 椎茸とクワガタ

椎茸の栽培に使われる甘い樹液のクヌギはクワガタが集まる木として有名です。
クワガタの成虫は、樹液量の多い若いクヌギに集まるので、椎茸栽培などで間伐して切り株から勝手に新芽が出る「ひこばえ(萌芽更新)」していないと、その森から若い森へ移動してしまうそうです。
また間伐をしないと森が暗くなり、下草や低木が生えないために他の昆虫もいなくなるそうです。

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現代の快適な生活では昆虫は不要だと考える人がいるかもしれませんが、昆虫は地球にとってとても重要な役割を担っています。例えば、クワガタの幼虫は、椎茸栽培の役割を終えてボロボロになった原木が大好きで、噛み砕いて発酵させ、良質な土壌に還しています。また幼虫は腐朽木の中にトンネルを掘り、木材を食べることで木材の表面積を増やし、他の糸状菌やバクテリアによる分解を促進します。

以下の写真のようにクワガタの幼虫はほだ場で人間と協働しています。

クワガタと共に働く

クワガタムシ科は、森林生態系において重要な分解者の昆虫群です。クワガタムシの幼虫は、枯死木や腐朽した木材に生息する多くの種の菌類を摂食します。さらに、雌成虫の体内には「菌鞘」と呼ばれる微生物を貯蔵する器官があり、クワガタムシはキシロースを発酵させる酵母を運搬し、産卵場所である木材内にそれを移動させます。したがって、クワガタムシは木材腐朽菌との共生を通じて、物理的および化学的に枯死木の分解を助けていると考えられています。
またクワガタムシは樹液に関連する昆虫と微生物の生態系の重要な構成要素です。成虫は多くの種類の樹液関連細菌や真菌を持ち、樹液を発酵させ、他の昆虫グループの餌資源を作り出しています。

"Diversity of Stag Beetle-Associated Nematodes in Japan"冒頭部分より

「サイレント・アース 昆虫たちの沈黙の春」では昆虫の大切さについて以下のように説明されています。

"生態系から種が失われる状況は、飛行機の翼のあちこちからリベットが抜け落ちているようなもの" ーアメリカの生物学者ポール・エーリックによるこのたとえはよく知られている。抜け落ちたのが一本や二本なら、飛行機はおそらく問題ない。だが、一〇本、二〇本、五〇本と抜け落ちていけば、そのうち予測不可能な状況に陥り、取り返しのつかない事態が発生して、飛行機は墜落してしまうだろう。昆虫は生態系の機能を維持しているリベットのような存在だ。私たちがどこまで瀬戸際に追い込まれているかは、はっきりしない。いくつかの場所では、すでに一線を越えてしまっている。

椎茸の原木栽培によって里山は約15年のサイクルで若々しく蘇ります。若いクヌギはCO2をより多く吸収するだけでなく、成長過程のため豊富な甘い樹液で昆虫を呼び寄せて豊かな生態系を作り上げます。

杉本商店は2023年からクワガタサミット(昆虫の聖地協議会)の会員です。豊かな里山文化の発信に積極的に貢献してまいります。

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高千穂郷は世界農業遺産(GIAHS)です

高千穂郷は世界農業遺産に選ばれています!椎茸だけではない豊かな里山文化をご覧ください。

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画像は「高千穂郷・椎葉山地域 世界農業遺産申請書 説明資料」より
https://takachihogo-shiibayama-giahs.com/wp-content/themes/original/pdf/World-Agricultural-heritage-instructions.pdf


昔の日本の里山と椎茸

以下のブログも是非ご覧ください。日本の里山は縄文時代に始まり、1930年頃にピークを迎えましたが、今も高千穂郷には里山文化が脈々と受け継がれていて世界農業遺産に登録されています。

DNA分析で分かった!椎茸は縄文時代以前に宮崎から中国大陸へと広まった。

約100年前の日本では全国の里山で椎茸狩りできた!

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